lilja2.jpg NOTE #2


英国での公開にあたり(2003年5月)

やっと英国で本格的に公開され始めたようで、うれしいかぎり。
延ばし延ばしにして全然進んでいなかったこのサイトもこれを機に充実させたいと思い再始動。

それで「さて、どうしようかな」と思い、レヴューなどの紹介はどこか他でもありそうだし、
みつけることも可能だと思ったので、それよりもずっとずっと気になっていた一枚の新聞記事を
訳つきで紹介しようと思う。

その記事の切抜きを見てみると、日付は2002年4月19日付けになっているので、
もう一年も前のものだ。
それから数ヶ月して「Lilja 4-ever」を観ることになるのだけど、
そこで描かれている人身売買の実態、手の込んだ売春行為が仕組まれている、
ということについて初めて具体的に知ったのはこの記事によってである。

そこには、マンションの一部屋に東欧から連れて来た女性を住まわせ、
「信頼のおけるルートで」電話番号を入手したものだけがそこを訪れて
サービスを受けられる、ということが、ごくふつうの都市郊外の団地の一角で行われている
ということが書いてあった。
記事を書いた記者は男性で、あるルートからそのディーラーの番号を手に入れて、
客のふりをしてそこへ赴き、そこにいる女の子たちと接触し、簡単なインタビューを行った、
ということだった。
場所はストックホルム郊外、目と鼻の先には司法局がある、というようなロケーションで
法の抜け道を狙った非道な犯罪が行われている、という告発記事であったのだけど、
読後感はまったくすっきりしなかった。
いろんな意味でショックだったし、腹も立った。
なんでそんなことが野放しにされとるんじゃ!という憤りの混じった疑問と、
自分の接触したディーラーを名指しで犯罪者としてつきだすということが
原則としてできない、ジャーナリズムというものへの軽い失望。
もちろん記事を書いて告発することにはとても大きな意義がある。
けれども、そこから先に進むことはできないんだろうか。

それまでにも同じような内容のドキュメンタリーをTVで観たこともあった。
東からだまされて連れてこられて逃げようのない女の子たちが街角に立たされる、
というようなことが起きていることも、なんとなくは知っていた。
でも、その舞台が自分の住むくにとなり、しかもほんとうに身近なところ、
自分が住んでいるのと同じようなのんびりとした団地の、すぐ隣の部屋でそんなことが起きている、
となると、一気に背筋が震える思いがした。
そして、そんなことも知らずにのほほんと暮らしている自分がいる、ということにも空寒さを感じた。
「スウェーデンでは売春行為は法的に禁止されておりポルノショップもありません」
セックス産業の撤廃に法的に持ち込んだ、これがこのくにのフェミニストたちの誇りとする事実だ。
ついこの間もセミナーで耳にした。
でも実態はこれなのか???

とにかくものすごくショックで納得がいかなかった。
数ヶ月後に、「Lilja 4-ever」という新作でルーカス・ムーディソンがまさにこのことを描いている、
と知ったとき、「ムーディソンよう撮った!」と思った。
そして、作品を観終わったとき、「ほんとによく撮ったわ」と思った。
DNの記事を読んだときにはうまくかたちにならなかったもの、
たとえば、当事者の女の子たちのこと、状況の複雑さ、巧妙さ、彼女たちの故郷の事情、
そういったものがものすご勢いで「ほんとうのこと」として目の前に現れ観客の頭をぶったたいていった。
それだけのものを撮るということは、それを観ることよりももっともっとパワーの要ることだ。
どれほどのものが彼を突き動かしたんだろう。
公開に先がけてDagens Nyheter紙に載ったインタビューを読むと、それが少しわかってくる。
そのインタビューについても後ほど「about the director」のコーナーで。
その前に、まずは無味無臭で衝撃の告発記事について「NOTE #3」で。